抄録:
この研究ノートの目的は,確率的割引ファクターとCAPMの関係を明らかにすることである。現代のファイナンス理論において,確率的割引ファクターは様々な資産価格理論を統一的に把握する「核」となっている。ここでは特に,確率的割引ファクターを用いた価格式から直接に導かれるベータ価格式とCAPMの関係に焦点を当てて分析を行う。本稿の構成は以下の通りである。まずⅠ節において,確率的割引ファクターによる価格付けを考えるため,状態価格とリスク中立確率との関係について整理する。続くⅡ節において,ベータ価格式を導出し,CAPMとの関係について論じる。Ⅲ節においては,消費者の期待効用最大化の条件式から,CAPM導出の必要条件の一つを示す。Ⅳ節においては,Stein’s lemmaを用いる方法によりCAPMを導出する。Ⅴ節において確率的割引ファクターの経済的含意を探り,理論的に整合的な生起確率について考える。最後に議論をまとめる。