Abstract:
我が国では,特にバブル崩壊後の1990年代に景気対策として公共投資が積極的に用いられてきたにも関わらず,景気回復が思わしくなかったこともあり,公共投資の有効性や,社会資本の効率性について懐疑的な見方がなされるようになって久しい。しかしながら,2012年の総選挙で約3年ぶりに政権に復帰した自民党は「国土強靭化」をスローガンに,再び公共投資を増額する意向を示している。少子高齢化を背景に,我が国の財政状況はより厳しくなることが予想され,効率的な予算配分を実現するためには,公共投資(もしくは社会資本)の質を高めることは喫緊の課題であるといえる。また,不況局面に入ると,特に公共事業への依存度が高い,非都市圏において,地域経済対策として公共投資を求める声も依然として聞かれ,公共投資(社会資本)が地域経済にどのようなインパクトを与えているかを分析することは今なお重要であると考えられる。
公共投資を含む公的支出や社会資本と地域経済の関係について実証的に分析したものとしては,例えば,土居(1998),林(2004a,b)や近藤(2011)があげられる。これらの研究では,都道府県単位のパネルデータを用いて,社会資本を含んだ生産関数の推定や,ベクトル自己回帰(VAR)モデルによる分析を行っている。ただし,公共投資の効果や社会資本の効率性は,その内容(産業基盤か生活基盤か,道路か住宅か)によっても大きく変わるであろう。そこで,本稿では,地域経済への貢献がしばしば期待され,事業規模が最も大きい道路に着目して,社会資本ストックとしての道路資本と地域経済との関係について,都道府県単位のパネルデータを用いたVARモデルによって明らかにすることを試みる。具体的には,道路資本と生産量,民間資本,雇用との相互関係を明らかにする。また,道路の種類による違いを考慮すべく,国道と地方道に分けて分析するほか,地域および時期による違いも考慮に入れるべくサブサンプルを用いた分析も行うこととする。本稿の構成は,以下の通りである。第2節では,社会資本や道路資本の経済効果に関する先行研究を概観し,論点整理を行う。第3節では,実証分析の枠組みとデータを説明し,推定結果について述べる。第4節はまとめである。