Abstract:
OECD による所得不平等についての比較研究であるOECD(2008,2011)において,2008年までの約30年間OECD諸国における所得格差が拡大を続け,過去最大に達していることが報告された。長期のデータ系列が利用できるOECD22カ国中17カ国でジニ係数が上昇し続けているのである。近年の世界的経済危機の始まりまでに,OECDの大多数の国で家計所得の上位10%の所得上昇率が下位10%の所得上昇率を上回ったことが貧富の差の拡大の原因の一つであり,さらに,両報告書において不平等度の上昇の背景にあるこれ以外の主因についても明らかにされている。しかし,OECD諸国間で所得格差の水準に依然として大きな差異があることは確かなので,本稿の主目的は2000年代のOECD30カ国を所得格差によりいくつかのクラスタに分類することである。OECD諸国を所得不平等度や所得貧困度で別々に分類することはそれほど困難ではない。しかし,所得格差は多次元の概念だから例えば不平等度と貧困度とで同時に把握する必要があろう。その場合の所得格差(不平等度・貧困度)を直接的に計測することは容易ではないが,それによりOECD諸国をクラスタリングすることはできる。そこで,本稿では2000年代の2時点におけるOECD諸国が所得格差(不平等度・貧困度)によりいくつかのクラスタに分割された結果の比較が試みられ,所得格差の数的特徴のみによってクラスタリングされた結果がどのような非数的特徴で分割されているのかが明らかにされる。