抄録:
この研究ノートの目的は,以下の3点である。第1 に,資産価格決定の3つの方法である状態価格,リスク中立確率,そして確率的割引ファクターの関係を明らかにすること。第2に,確率的割引ファクターと代表的個人の最適化行動の関係を明らかにし,併せてリスク回避度との関係を検討すること。そして,第3に具体的数値例を用いて,3つの資産価格決定法によるオプション理論価格を求めることである。この研究ノートでは議論を単純化するため,2期間モデル(今期t=0と来期t=1)のみを用いる。はじめに,資産価格決定に関する論文,テキストでは同じ概念のものに別の用語が用いられているので,ここで整理しておく。まず,状態価格は「アロー証券」の価格であり,リスク中立確率(測度)とマーチンゲールは同義語である。また確率的割引ファクターは,「状態価格密度」,「状態価格デフレーター」,「状態価格カーネル」(Pricing kernel)とも同義である。本稿の構成は以下の通りである。まずⅠ節において,資産価格の決定に重要な「ファイナンス理論の基本定理」について説明する。続くⅡ節において,状態価格とリスク中立確率の関係を明らかにし,状態価格と生起確率との関係を示す確率的割引ファクターについて触れる。Ⅲ節においては,代表的個人の期待効用最大化の1階の条件式より,確率的割引ファクターを導き,状態価格と生起確率そしてリスク中立確率と生起確率の変換可能性について考察する。また,リスク回避度の変化による状態価格や資産価格への影響についても明らかにする。Ⅳ節においては,配当行列の各要素に具体的数値例を用いて,状態価格,リスク中立確率,そして確率的割引ファクターを求め,3つの資産価格決定方法でオプションの理論価格を求めることとする。最後に今後の課題について触れる。