抄録:
本学で筆者は、「労働政策」という講義を2008年度から毎年、担当している。講義後半では、地域雇用政策と国際労働政策というテーマを取り上げている。前者では日本全体の地域雇用政策の枠組みに加えて福岡県の雇用政策を、後者ではILOやOECD、EUの労働政策を取り上げている。これらのテーマの講義資料を準備する中で、かつて福岡県に「福岡県ILO協会」という団体が置かれていたことを知った。地域雇用政策と国際労働政策の結節点とおぼしき存在として興味を抱き、調べてみたが、資料が乏しく、実態については意外と知られていないことがわかった。ようやく入手した日本ILO協会の資料によれば、かつて日本では、福岡県のみならずいくつかの道府県に、ILOに協力する民間団体が存在していた。それらは日本ILO協会の地域支部として出発し、その後「暖簾分け」したものである。その多くは地元自治体の労政担当課に事務局を置き、「三者構成原則(tripartitism or tripartite principle)」に基づいて地域の使用者団体と労働組合の代表、及び学識者で構成される理事会の下、地域の政労使やシンクタンクなどと連携しながら、労使対話の場の提供や労働問題の調査研究、また夏期労働大学の開講や講演会・セミナーの開催といった啓発活動などに一定の役割を果たしてきた。しかし、その多くは1990年代までに活動を停止するか解散し、福岡県ILO協会も2004年3月に活動を終了している。その後も活動を続けていた大阪や兵庫のILO協会のうち、兵庫県ILO協会が2011年8月31日をもって解散し、大阪ILO協会は、解散こそしていないものの永らく休止状態にあると言う。もはや存在しないとは言え、その軌跡を資料的に跡づけることは、地域雇用政策の今後を考える上で重要である。またそれを語り伝えることは、福岡在住の研究者の責務とも言える。にも関わらず、その実態については資料の乏しさもあって意外と知られていない。また、当事者や第三者による活動の事後評価も筆者の知る限り、全く行われていない。そこで本稿では福岡県ILO協会を中心に、会報『ILOふくおか』 などの資料や関係者の証言などを元に、その沿革や往時の活動などを紹介し、ILOにまつわる知られざるエピソードに光をあてたい。以下ではまず、日本とILOとの関わりと日本ILO協会について簡単に紹介する。その上で福岡県ILO協会について、発足から解散までの足取りを追うことにする。