抄録:
独立行政法人日本学生支援機構がまとめた「平成25年度外国人留学生在籍状況調査」によると,平成25年5月1日現在の在日留学生数は135,519人,日本語学校などの日本語教育機関に在籍する留学生32,626人を含めると168,145人に上る。そのうち,「アジアのゲートウェイ」を標榜する福岡市を中心とする福岡県の留学生数は,同資料によると10,779人で,日本語教育機関在籍留学生の2928人を合わせると13,707人である。これは東京に次いで多い数であり,留学生のエスノスケープ(ethno-scapes)に限れば,福岡は今や日本でも有数の「グローバル学生都市」になりつつある。日本の留学を望む外国人は,まずは民間の日本語教育機関で日本語を習得した後,大学や専門学校などに進学するケースが多い。私費留学生の約3割以上はこうした日本語学校を経由して各教育機関へ進学しており,そうした学生はまさに「留学生予備軍」とも言える存在となっている(「「『留学生30万人計画』の骨子」取りまとめの考え方に基づく具体的方策の検討」平成20年6月23日中央教育審議会大学分科会 留学生特別委員会p2,p16)。後述するように,日本への留学生が増加することは,今後の日本社会にとって大きな意味を持っている。したがって,進学までの準備期間を提供する日本語学校に課せられた役割は,今後ますます重要なものとなっていくであろう。国内の日本語教育の充実化は待ったなしの状況であるはずだが,日本語学校の現状はどのようなものなのであろうか。本稿では,主に二つの視点からこの点を考察していく。一つは,非常勤日本語教師として実際に日本語学校に勤めている筆者の,エスノグラフィックな観察に基づく視点である。筆者は,日々の日本語の授業において直に学生と接しており,リアルな相互作用を通してさまざまな経験をしている。ここにおいて,日本語教師としての筆者は,同時に研究者として参与観察を行っているのであり,日々の授業は同時にフィールドワークでもある。第二の視点は,学生に対する聞き取り調査を基にしたものである。日々の授業を行っていくうちに,学生との間に自然と築かれていくラポールは,聞き取り調査の段になって彼らの本音を聞き出す鍵となる。特に本研究の聞き取り調査は,研究者が聞きたいことを先に質問票にしたため順次聞いていくインタビューの形式ではなく,研究者との自由対話を重ねることによって明らかになる新たな発見をもとに,問題設定を積み重ねていくライフストーリーインタビューの形式で行うため,ラポール構築は必要不可欠である。以上が本稿の問題意識と研究方法であるが,本題にかかる前に,まずはなぜ留学生の増加と日本語教育機関の充実化が望まれるのかということについて概説することにする。