太田, 菜都美
(西南学院大学大学院Seinan Gakuin University Graduate School, 2015-01)
エマニュエル・ボーヴ(1898-1945)の『罠』(1945) の評価は大きく二つにわけることができる。一つは「ヴィシー政権下のフランスを的確に描写した」歴史小説,戦争文学としての価値を讃えたものであり,もう一つは「個人の主観の限界」という20世紀的命題にしてボーヴの長年のテーマであるものの探求の,一つの到達点であるとするものである。前者はボーヴの「表象」の精緻さの賞賛であり,後者は「表象」の限界の告発を賛美している。本論では,こうした ...