第10巻1号 (2014)
http://repository.seinan-gu.ac.jp/handle/123456789/1115
第10巻1号
2024-03-29T12:17:08Z
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視標追跡検査を用いたパーキンソン病患者の手の運動機能の解析:DBS手術の定量評価
http://repository.seinan-gu.ac.jp/handle/123456789/1117
視標追跡検査を用いたパーキンソン病患者の手の運動機能の解析:DBS手術の定量評価
井手, 順子; 杉, 剛直; 島, 史雄
パーキンソン病(Parkinson’s disease:PD)は,大脳基底核の黒質における脳内神経伝達物質ドパミンが不足する神経変性疾患で,中年以降に発症し,原因不明の進行性の病気である.PDの主な運動機能障害の特徴は,上肢および(または)下肢の4-6Hz の振戦(tremor),筋肉のこわばりである固縮(rigidity),動作が緩慢になったり動かなくなる無動((akinesia),寡動(bradykinesia)),そして体のバランスを保てなくなってしまう姿勢反射障害(postural instability)の主に4つである.病気が進行すると歩行も困難になり,日常生活動作(activities of daily living:ADL)は著しく低下する.PD患者に対する一般的な治療は,不足したドパミンを補うために,レボドパ(L−dopa)などの投薬を行うことであるが,症状が進行した場合,薬物療法がつ
ねによりよい改善方法でない場合もある.薬がきかない,またはきいている時間が短い場合や,薬の副作用(薬の効きすぎによる不随意運動,ジスキネジア(dyskinesia)など)が強い場合などは,脳深部に電極を埋め込み,電気的な刺激を与える外科手術である脳深部刺激(Deep Brain Stimulation:DBS)が行われる.DBS手術では,視床下核(subthalamic nucleus:STN)や淡蒼球内節(internal segment of the globus pallidus:GPi)に細い針電極を埋め込み,電気的な刺激を24時間連続して行う.DBS手術後は,刺激の強さや頻度を調整して,各患者にとって全身状態を最適に保つ.PD患者は手術によって薬の量を大幅に減らす事ができ,薬の副作用や振せんの症状などもかなり軽減される.DBS手術はパーキンソン病の根本治療ではないものの,PD患者に対して極めて効果的な治療法といえる.しかしながら,その効果や有効性は,通常現場の医師による主観的な視察により評価されており,定量的な評価はあまり明確に行われていない.
PD患者の症状の程度を評価するには,Hoehn & Yahrの重症度分類(ヤールの値)が基本であるが,さらに日常生活活動の評価も兼ね備えたパーキンソン病統一スケールUPDRS(Unified Parkinson’s Disease Rating Scale)も広く採用されている.UPDRSは4つのパートに分かれており,それぞれ精神機能,行動および気分(Part I),日常生活動作(Part II),運動能力検査(Part III),治療の合併症(Part IV)から構成される.UPDRS の中で,運動に関する項目のPart III では,指タップや手の回内回外運動,運動量の減少や動作緩慢などがあり,医師の経験に基づいて評価されている部分もある.PD患者の初期症状としては,振せんの頻度が圧倒的に高く,次いで歩行障害である.歩行の第一歩がでなくなる第一歩障害やすくみ足,歩幅が狭くなる小刻み歩行やつま先歩行,前屈前傾姿勢から一度動き出すと徐々に速足になる突進現象などがある.PD患者の歩行や姿勢に関しては,PD患者と高齢者の歩行解析や,トレッドミルによる歩行計測,立位姿勢制御能力の評価などが行われている.歩行以外でも,ヒトの運動機能の解析と評価に関する研究は多く行われている.視標追跡検査は,ヒトの手の運動機能を評価する有効な手段の1つである.幼・小児を対象とした上肢運動機能発達の評価のために、視標追跡描円運動課題の結果に対し、3次元モデルの構築が行われた.著者らは過去の研究において,視標追跡運動機能検査を小脳失調症患者とPD患者に対して行い,病態群間による特徴抽出を行った.その結果,反応性や正確性について,両郡間で相違が見受けられた.PD患者に関しては,小脳失調症患者に比べて運動機能そのものは劣っていたものの,学習効果が認められた.本研究では,毎回異なる軌跡を描き,ランダムな方向に移動するランダム変動視標を用いた追跡運動機能検査を,DBS手術対象者である6名のPD患者に対して行った.DBS手術効果を定量評価するために,DBS手術前と,術後1週間程度で視標追跡検査を行い,手の動きの特徴を評価しうるパラメータを用いて手の運動機能の比較を行った.目標視標に対する反応性や追従の正確さ,速やかさといった,PD患者の運動特徴と関連のある評価パラメータを被検者の検査結果から算出し,DBS手術の効果を評価した.また,健常成人の検査結果との比較も行った.
2014-08-01T00:00:00Z
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「群読」を援用する説明的文章の学習指導―「大きな力を出す」の群読台本を例として―
http://repository.seinan-gu.ac.jp/handle/123456789/1120
「群読」を援用する説明的文章の学習指導―「大きな力を出す」の群読台本を例として―
古田, 雅憲
「群読を用いる」と言えば,まず文学的な文章の学習場面を想像するのが普通だろう。それを「説明文にも使いたい」などと言うならば,およそ国語科にお詳しい先生方ほど,怪訝そうなお顔をされるに相違あるまい。むろん,説明的な文章全般の指導に群読の方法が有効である,などと言いたいのではない。が,こと「身体論」のような素材の学習にあたっては,「実際に声を出す」ことを主要な活動とする学びの場が構想されても良いだろう。小稿に取り上げる「大きな力を出す」や「動いて,考えて,また動く」などは,そのような想を練る上で恰好の素材の一つである。
2014-08-01T00:00:00Z
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(書評) 『農の福祉力ーアグロ・メディコ・ポリスの挑戦』
http://repository.seinan-gu.ac.jp/handle/123456789/1116
(書評) 『農の福祉力ーアグロ・メディコ・ポリスの挑戦』
賀戸, 一郎
2014-08-01T00:00:00Z
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日雇派遣労働と日雇労働研究:規制緩和の是非に関する一考察
http://repository.seinan-gu.ac.jp/handle/123456789/1118
日雇派遣労働と日雇労働研究:規制緩和の是非に関する一考察
大西, 祥惠
日本の労働市場において,非正規労働者の割合が高まってきていることが指摘されている。こうした非正規労働者の割合は,若年層に絞るとさらに高まるといわれている。これら非正規労働者のなかでも,派遣労働者はその多くが登録型派遣といって,ふだんは派遣元事業者に登録のみをしておき,派遣先事業者において仕事の得られたときだけ労働契約が結ばれることから,より一層不安定な状況におかれているといえよう。そもそも派遣労働は,1985年に労働者派遣法が制定された時点では特定の専門的な業務においてのみ認められることになっていた。しかし,1999年の法改正によって,それまで派遣労働を活用してもかまわない業務だけが明示されていたのが,派遣労働を活用してはいけない業務だけが明示されるという形に変更され,その業務の幅が一気に広がった(ポジティブ・リストからネガティブ・リストへの変更)。そして,その後も何度かに渡る規制緩和を経て,日本の労働市場においてすっかりなじみのある働き方となった。「リーマン・ショック」に端を発した世界不況によって,日本社会においてはいわゆる「派遣切り」が横行し,社宅などを追われた元派遣労働者たちの支援のために年末年始に数多くの労働組合のメンバーや弁護士,ボランティアたちが東京都の日比谷公園で派遣村の取り組みを行ったのは2008年末から2009年の年始のことである。この派遣労働のなかでも,もっとも不安定であるとみられるのは,雇用を一日一日区切って行う日雇派遣労働であり,こうした派遣労働の活用の仕方がなされていることが社会的に認知されるようになったのもこのころであった。ただし,日雇派遣労働は,その働き方があまりに不安定であるとの批判を受けて,民主党政権時代の2012年にいったん原則禁止が決定されていた。しかし,改正法施行前には例外規定が盛り込まれ,改正法施行後は日雇派遣労働における原則禁止の規制を緩和しようとする議論が政府の審議会などにおいて精
力的に続けられている。しかし,日雇派遣労働という働き方が社会的に認知されるようになってま
10年経つか経たないかという現在では,こうした働き方に関する研究蓄積も十分ではない。そのため,日雇派遣労働の是非をめぐっての議論はほとんどの場合,経済団体が賛成の意向を示すのに対して,労働組合や弁護士団体が反対の意向を示すことが一般的であり,それらの議論も両者の主張を吟味したうえで十分に深められているようには思われない。ところで,かつての日本社会には日雇という雇用形態で働く労働者が広範に存在しており,それら日雇労働者に関しては膨大な研究が蓄積されている。これらの日雇労働は雇用者から直接に雇用されていたという点では日雇派遣労働とは異なるが,日々雇用であるという点で日雇派遣労働者と重なり合うところが大きい。本稿の目的は,既存の日雇労働者に関する研究に焦点をあて,そこから日雇という働き方の特徴を明らかにし,今後の日雇派遣労働の在り方についての示唆を得ることである。本稿では,まず,「日雇」の定義や日雇派遣労働の規制緩和の是非を巡る議論を紹介したうえで,本稿における課題を明らかにする(第1節)。次に,既存の日雇労働研究から日雇労働の実態や政策的課題を抽出する(第2節)。最後,前節で得られた日雇という働き方の特徴や政策的課題を踏まえ,日雇派遣労働における原則禁止の是非をめぐって示唆されることを整理し,今後の日雇派遣労働に関する議論の方向性についての検討を行いたい(第3節)。
2014-08-01T00:00:00Z